モノポールテントの選び方|初心者から上級者まで失敗しないポイント
1. 出会いはキャンプ場で
「それで、結局どれを買ったの?」
陽介の質問に、美咲はスマホの画面を見せた。そこには、彼女が買ったばかりのモノポールテントの写真が映っている。
「これ。ワンポールテントって、設営簡単そうでしょ?」
「うん。でも、ポール一本で支えるから風にはちょっと弱いぞ」
「え、そうなの?」
美咲は少し不安げに唇を噛む。キャンプ初心者の彼女が一生懸命調べて選んだのがこのテントだった。見た目もかわいいし、設営も簡単と聞いて決めたのだが、まさか弱点があるとは。
「まあ、初心者には悪くない選択かもな。ただ、設営するときはペグをしっかり打てよ」
「ぺ、ペグ?」
「お前、ほんとにキャンプする気あるのか?」
陽介は呆れたように笑う。彼は大学時代からの友人で、アウトドア好きのベテランキャンパーだ。今回のキャンプも、陽介の誘いで参加することになった。
「大丈夫。ちゃんと調べたし、ちゃんと張れるから」
「なら、ちゃんと見せてもらうか」
2. 初めての設営
キャンプ場に到着すると、美咲はさっそく自分のモノポールテントを広げ始めた。
「えーっと、まずはグラウンドシートを敷いて……次にテントを広げて……」
彼女がテントを広げると、隣で陽介が腕を組んで見ていた。
「お前、ちゃんと張り綱も使うんだろうな?」
「張り綱? あれって必要なの?」
「お前、ほんとに説明書読んだか?」
陽介は呆れながらも、美咲の手を取って張り綱の固定を手伝った。
「これをちゃんと張らないと、ちょっとした風でテントが崩れるぞ」
「へえ……知らなかった。ありがとう」
美咲は素直に礼を言い、陽介の言うとおりにペグを深く打ち込んだ。彼の手は温かく、しっかりとしていた。何気ない手助けのはずなのに、美咲の胸が少しだけ高鳴る。
3. 夜の焚き火と心の距離
テントを無事に設営し終えた頃には、すっかり日が暮れていた。焚き火の前で、美咲は陽介と向かい合って座る。
「なんだかんだで、ちゃんと設営できたな」
「うん。でも、陽介がいなかったら、たぶん崩れてたかも」
「まあな。ワンポールはシンプルだけど、細かいコツがあるんだ」
焚き火の炎がゆらめき、二人の顔を優しく照らす。ふと、美咲は陽介の横顔を見つめた。
「ねえ、なんでそんなにキャンプ好きなの?」
「ん? まあ、単純に自然が好きなんだよ。あと、こうやって誰かと一緒に焚き火囲んでる時間が、なんか落ち着く」
「……なんか、いいね」
美咲は頬をかく。こんな風に落ち着いた気持ちになるのは久しぶりだった。
「それにしても、お前がキャンプに興味持つなんて意外だったな」
「ちょっとね、気分転換したくて」
「何かあったのか?」
陽介の問いに、美咲は少し考えてから答えた。
「……元カレと別れたばっかりで。なんか、環境変えたくなったのかも」
「そうか」
陽介はそれ以上何も言わなかった。ただ、焚き火を見つめながら薪をくべる。
「でも、今日キャンプ来てよかった。なんか楽しい」
「そりゃよかった」
陽介の笑顔を見て、美咲はふと思った。この人の隣にいると、なぜか安心する。キャンプのことなんて何も知らなかったけど、一緒にいる時間が心地よく感じるのはなぜだろう。
焚き火の火がパチパチと音を立てる中、美咲は静かに目を閉じた。
4. テントの中で
夜が深まり、美咲は自分のモノポールテントの中に潜り込んだ。思ったよりも広くて快適だったが、少し風が吹くたびにテントが揺れるのが気になる。
(ちゃんと張り綱、しっかり固定したよね……)
不安になって外を覗こうとしたその時、テントの外から陽介の声が聞こえた。
「おい、美咲。テントの具合はどうだ?」
「うん、大丈夫……たぶん」
「“たぶん"はダメだろ」
陽介は苦笑しながら、美咲のテントの張り具合を確認し始めた。
「ペグ、もうちょい深く打った方がいいな」
そう言うと、彼は手早くペグを打ち直し、張り綱のテンションを調整した。
「これで、明け方の風でも大丈夫だ」
「……ありがとう」
テントの入口越しに、美咲は陽介を見上げた。彼は月明かりの下で少し照れくさそうに笑っていた。
「お前のテント、ちゃんと守ってやるよ」
その言葉に、美咲の胸が温かくなる。
「……なんか、陽介といると落ち着くかも」
思わず口をついて出た言葉に、陽介は少し驚いたような顔をした。
「そりゃ、俺が頼れる男だからな」
「うん、そうかも」
美咲はそっと微笑む。
もしかしたら、キャンプだけじゃなく、この気持ちも新しい冒険の始まりなのかもしれない。